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JNRSメールニュース 第12号 (2017/3/30)

 

目次

(12−01) 単原子化学の手法によるラザホージウムの塩化物錯体生成における化学平衡の観測
(12−02) 本会会員、放射線安全管理奨励賞を受ける
(12−03) 福島復興・廃炉推進に貢献する学協会連絡会」の結成 
(12−04) メスバウアー分光研究会第18回シンポジウム、開催される 
(12−05) 第18回「環境放射能」研究会、開催される

 

(12-01) 単原子化学の手法によるラザホージウムの塩化物錯体生成における化学平衡の観測

大阪大学と理研から、2017年1月25日、超重元素の化学挙動の研究成果に関する同時/共同プレスリリースがあった[1]。大阪大学の笠松・篠原グループと理化学研究所の羽場グループによる、 104 番元素ラザホージウム(Rf)の抽出反応における化学平衡到達観測である。笠松良崇氏、篠原厚氏は、大阪大学大学院理学研究科の、それぞれ、講師、教授である。羽場宏光氏は、理研仁科加速器研究センターで、チームリーダーの任にある。主要な、そして大多数の研究メンバーは日本放射化学会会員である。
 元素の化学的性質の解明は、化学という学問が成立して以来の永遠なるテーマの一つである。たいていの元素の化学的性質は明らかにされているが、超重元素については、現在なおニューフロンティアである。本メールニュースでも106番元素Sgの新しい化学的性質の解明が、本会会員による研究成果として紹介されている(MN1号-02)。この分野は、原子核物理、原子核反応、元素の生成直後の化学状態、インビーム/オンライン化学分離、放射能測定、そして元素の化学などからなる、“多分野・境界領域的”なものである。そして、それらを統合的に担えるのが放射化学者である。
 笠松・羽場グループは、理研仁科加速器研究大強度重イオン加速器で261Rf の固液抽出実験を実施した。生成のための重イオン反応は、248Cm + 18O → 261Rf + 5nである。生成率は小さく、半減期(68秒)も短いので、1回の抽出実験で扱える261Rf数は1個となり、極めて困難な実験となる。「単原子化学(atom-at-a-time chemistry)」と呼ばれる所以である[2]。同グループは、バッチ型の加速器オンライン固液抽出装置(AMBER)を開発し、261Rfの7.9M塩酸溶液中で分配係数(溶液とAliquat336樹脂への分配比)を、いくつかの固液接触時間(10、30,60秒)で測定し、時間依存性がないことを確認した。その結果から、Rfの塩化物錯体が、同族元素Zr、Hfとは異なり、より安定に形成されることを明らかにした。この研究成果は、2016 年⒒月、英国科学誌「Dalton Transactions」に掲載された[3]。  
[1] 大阪大学/理研、共同プレスリリース:
http://www.sci.osaka-u.ac.jp/ja/wp-content/uploads/2017/01/20170125release.pdf#search=%27%E7%AC%A0%E6%9D%BE%E3%83%BB%E7%AF%A0%E5%8E%9F+%E7%BE%BD%E5%A0%B4+Rf%27
[2] 「単原子化学(atom-at-a-time chemistry)」に関する解説:(大阪大学、篠原研究室HP“重元素の基礎知識”
http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/shinohara/researches/she01.html
[3] Takuya Yokokita, Yoshitaka Kasamatsu, Aiko Kino, Hiromitsu Haba, Yudai Shigekawa, Yuki Yasuda, Kouhei Nakamura, Keigo Toyomura, Yukiko Komori, Masashi Murakami, Takashi Yoshimura, Naruto Takahashi, Kosuke Morita, and Atsushi Shinohara; Dalton Transactions, Vol.45、18827-18831 (2016), “Observation of the chemical reaction equilibria of element 104, rutherfordium: solid–liquid extraction of Rf, Zr, Hf and Th with Aliquat 336 resin from HCl”
(YS)

 

(12-02) 本会会員、放射線安全管理奨励賞を受ける         

日本アイソトープ協会・放射線安全取扱部会(かつての放射線取扱主任者部会)は、2015年度より、放射線安全に長年貢献してきた部会員に対し功労表彰を行っている。今年度からは、事実上の若手表彰として、さらに「放射線安全管理奨励賞」も加えられた。その初の「放射線安全管理奨励賞」は3名が受賞したが、うち一人が日本放射化学会会員であった。東京大学アイソトープ総合センターで10年にわたり放射線安全管理全般を担ってきた桧垣正吾氏である[1]。桧垣氏は東京大学大学院理学系研究科を終えたのち、トリチウムのトレーサー利用や環境放射能の研究に邁進するとともに、今回表彰の対象となった任務にあたられている。日本放射化学会においても、インターネット広報委員として活躍し、特に学会のWEB運営において大きな貢献をしている。
[1]  http://www.jrias.or.jp/seminar/cat5/706.html
(YS)

 

(12-03) 福島復興・廃炉推進に貢献する学協会連絡会」の結成

昨年(2016年)、日本原子力学会を中心に日本の学術団体(学協会)約35団体が会して、東京電力福島第一原子力発電所事故に関連する活動について、学協会が相互に情報交換を行い連携協力することにより、福島復興と廃炉推進に貢献する活動の一層の効果的・効率的な実施・推進を図ることを目的として「福島復興・廃炉推進に貢献する学協会連絡会」が結成された。まだ、数回の連絡会開催ではあるが、前回(2017年1月26日)には各学協会代表により福島への取り組みについて10分程度の紹介がなされた。日本放射化学会からは大槻勤理事が代表として出席し、本会の目指している研究活動の方向性などを紹介するとともに、原発事故直後の土壌調査や一般公開講座など、これまで各会員が行ってきた福島への取り組みなどもを紹介した。すでに本連絡会のポータルサイトも立ち上がり、その概要も伺い知ることができる,http://www.anfurd.jp/activity.html。本ポータルサイトからは放射化学会のホームページにも飛ぶことができるため、本ホームページ中での福島への取り組みの充実も望まれるところである。本学協会は全体としてはまだ「福島復興と廃炉推進」に温度差があるものの複数の学協会の相補的(協力的)な取り組みで、少しずつでも方向性を見定めていき、福島地域への貢献ができればと思うものである。
(TO)

 

(12-04)メスバウアー分光研究会第18回シンポジウム、開催される

 2017年3月15日から16日にかけて、東京理科大学森戸記念館にてメスバウアー分光研究会第18回シンポジウムが開催された。招待講演は3件、一般講演17件の発表があり、全20講演中17講演が英語による発表であった。これは、発表者には学部4年生や修士1年生も多く含まれていることを考えると驚くべき件数である。発表内容は、ナノ粒子や金属錯体の磁性研究、ガラスやクラスター化合物の触媒活性、生物学・原子力学への応用など、多くの科学領域を横断するものであった。
 招待講演において、ブタペスト大学(ハンガリー)・Kuzmann教授は、二配位鉄(II)錯体の磁気カップリングがd軌道電子の異方性及び局在性と関連付けられることを示した。同じくブタペスト大学・Homonnay教授は、マグネタイトやFe-Co合金のナノ粒子を用いて、土壌中へのFeの吸収メカニズムの解明に向けた研究について講演した。シェフィールド・ハラム大学(英国)・Bingham教授は、放射性廃棄物に対してメスバウアー分光の適用し、放射線場における鉄の酸化状態やガラス固化体のスペシエーションなどの応用例について発表した。
 一般講演において、広島大学・中島グループは、鉄(II)集積型錯体のスピンクロスオーバー挙動を制御する因子を探るために、架橋配位子の置換基を修飾しながら注意深く議論した。首都大学東京・久冨木グループ及び近畿大学・西田グループは、鉄含有バナジン酸塩(V2O5)ガラスの電気伝導度の変化が、金属周りの局所的な構造の歪みと相関すること示した。これらの研究は、磁性スイッチングや電気伝導といったマクロな現象が、金属近傍のミクロな幾何学及び電子構造の変化によって引き起こされることに着目している点で興味深い。また、名古屋大学・大木氏及び大同大学・酒井氏らによる窒素固定化に向けた鉄-水素クラスターの合成・応用研究や、東京理科大学・野村氏らによるチタン酸光触媒の119Snメスバウアー分光研究、JASRI・筒井氏らによる149Sm放射光メスバウアー分光によるSm金属間化合物の酸化状態研究、東京理科大学・山田グループによるレーザーアブレーション法を用いた鉄化合物微粒子に関する研究など、触媒などへの応用や装置開発によるメスバウアー分光の新たな可能性が展開されていた。
 議論は日本語・英語を問わず活発に行われ、講演会場・懇親会場ともにアットホームな雰囲気であった。次回のシンポジウムは2018年の3月ごろに予定されているが、加えて新たな試みとしてメスバウアー分光に関するセミナーの開催が検討されている。メスバウアー分光に興味がある方はもちろん、これから着手される予定の方にとっても良い機会になるはずである。
[1] http://www.lab2.toho-u.ac.jp/sci/chem/ichem/moss/index.html
(MK)

 

(12-05) 第18回「環境放射能」研究会、開催される 

第18回目となる環境放射能研究会が、2017年3月14日~16日の三日間にわたり高エネルギー加速器研究機構の小林記念ホールとラウンジ(ポスター発表)を会場として開催された。本研究会は高エネルギー加速器研究機構 放射線科学センターと日本放射化学会α放射体・環境放射能分科会が主催し、日本原子力学会保健物理・環境科学部会、日本放射線影響学会、日本放射線安全管理学会が共催して開催され、今回の参加者数は約210名であった。今回の研究会のテーマには、「自然環境放射能」、「放射線・原子力施設環境放射能」のふたつの固定テーマに加え、第13回研究会(2012年開催)からの継続的なテーマとして「東京電力福島第一原子力発電所事故」が掲げられており、口頭で29件、ポスターで54件の研究成果についての発表が行われた。
 口頭およびポスター発表では、東京電力福島第一原子力発電所事故に関する研究発表が依然として多数を占めているが、蓄積された観測データの分析が進むとともに、新たな課題の発見や研究テーマの創設も見受けられ、ひとつの大きな研究テーマとしての体系化が進んでいるように感じられた。
 一般講演以外には、依頼講演として1件、特別講演として3件の講演があった。依頼講演は、筑波大学の笹 公和先生から「加速器質量分析法による長寿命放射性核種の超高感度検出技術の進展とその応用」という演題で、加速器質量分析法の世界的な状況から筑波大学で行われている最先端の研究まで、ハードとソフトの両面からわかりやすいレクチャーをしていただいた。特別講演としては、今年度末で定年を迎えられる信州大学の村松久和先生と首都大学東京の海老原充先生、放射能に関する研究を長きにわたって継続され今も現役で研究を続けられている理化学研究所仁科加速器研究センターの岡野眞治先生からの講演をいただいた。村松先生の講演は「わたしの軌跡 -環境放射能研究をともに歩んだ人々-」というタイトルで、先生のこれまでのご研究の流れを人との繋がりと結びつけながらお話し戴いた。海老原先生には「原子力に魅せられて50年」というタイトルで、小学生時代に感じられた原子力(原子核の崩壊)に対する衝撃から始まり研究者として歩んでこられたこれまでの道のりをお話し戴いた。岡野先生からは「放射能との付き合い70年」というタイトルで、特に放射線測定におけるスペクトル情報の重要性について、動画によるデモンストレーションも交えてお話しして戴いた。
 本研究会では学生や若手の研究者による優れた発表に対して研究会奨励賞が送られる。今回は大阪大学大学院理学研究科の鈴木杏菜氏による「福島県川俣町で採取した土壌中のSr-90の深度分布及び移動度の決定」(口頭)、筑波大学大学院数理物質科学研究科の細谷青児氏による「長寿命放射性核種Cl-36の加速器質量分析法による超高感度測定」(ポスター)、京都大学大学院農学研究科の田中草太氏による「節足動物・環形動物を生物指標とした食物連鎖における放射性セシウムの動態」(ポスター)、東京都立産業技術研究センターの永川栄泰氏による「水生植物における放射性Csのモニタリング及び非放射性Csとの挙動の比較」(ポスター)の4件が選ばれ、研究会の最後に授賞式が行われた。
 また、前回の研究会にて世話人会から提案された、事故後5年間の環境放射能研究について、本研究会での報告を中心にしたレビューを作成する活動についての報告があり、"東京電力福島第一原子力発電所事故以降の5年間における環境放射能研究のとりまとめ -「環境放射能」研究会における発表を中心にー"というタイトルで、高エネルギー加速器研究機構の出版物サーバーより一般に公開するとともに、印刷冊子(B5サイズ、約135P)が発行されるとのアナウンスがあった。

(KT)